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今回は日本を代表する音楽プロデューサー、作詞家、作曲家、音楽ライターの松尾潔(まつおきよし、通称KC)さんが手がけた楽曲を紹介していきます。
ジャーナリストとして取材したアーティストの数は実に1000人以上。その豊富な取材経験を生かしたライナーノーツ(CDに付属する解説書)や雑誌寄稿文はブラックミュージック愛好家から高い支持を得ることに。
90年代半ば頃からは音楽制作にも携わるようになり、手掛けた作品のCD総売上枚数が3000万枚を超えるなどプロデューサーとしてもその才能を大いに発揮。
2008年にはEXILE「Ti Amo」で第50回日本レコード大賞を受賞し、その名を歴史に刻みました。
ライター出身という珍しい経歴を持つ、日本が誇るビッグプロデューサーの一人と言えるでしょう。
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今回松尾潔さんという特定の人物に焦点を当て、その作品を取り上げようと思った背景には、二つ理由があります。
一つは、筆者が音楽に興味を持つきっかけになった人物が松尾さんであるということ。
R&Bやブラックミュージックという概念を知ったのも、より多くの楽曲を知ろうと音源を掘り下げるようになったのも、松尾さんが手掛けた素晴らしいアーティストや楽曲に出会えたからに他なりません。
そんな松尾さんの作品を改めて聴きなおし、ブログにまとめること自体に大きな喜びを感じたことや、作品をより多くの方に知ってもらいたいという純粋な思いから今回松尾さんの作品を取り上げることにしました。
まあ、既にかなり有名な方なのでご存知の方も多いと思いますが 笑
二つ目は、松尾さんの作品をまとめること自体が、R&Bとジャパニーズポップスの融合の歴史であり、その総括と言えるからです。
90年代後半、宇多田ヒカルやMISIAらを筆頭に、多くのアーティストやプロデューサーがR&Bを取り入れた楽曲を発表。日本は空前のR&Bブームを迎え、中には本場USと遜色ないディープなR&Bを実践するアーティストもいました。
そんなR&B群雄割拠時代における松尾氏の特徴は「R&Bをベースに据えながらも、広くポップシーンに戦いを挑んでいった」こと。
一部のブラックミュージック愛好家だけでなく、一般のリスナーをも惹きつけた作品の数々は単なるUSR&Bトレンドの模倣ではなく、ジャパニーズポップスとR&Bそれぞれの特徴を絶妙な配合で融合したグッドミュージック。
松尾氏がしばしば口にする
「R&Bより出でて、R&Bを超えていくもの」
それはすなわち時代の淘汰に耐えうる普遍的に素晴らしい作品に他なりません。
時代を超えて愛される名曲の数々を少しでも堪能していただければ筆者としても嬉しい限りです。
今回の記事は松尾氏が音楽制作に携わり始めた1996年から男性R&Bが花開く2000年頃までをピックアップします。(古い作品群なので動画がない作品も多数ございます)
松尾氏のクリエイターとしてのキャリアは既存曲のRemixからスタートします。
JON B. 「Simple Melody featuring Bootsy Collins (KC's BE-MELLOW Remix)」(1996)
JON B.はBoyz II Menなどを手掛けるUSの超ビッグプロデューサーBaby Faceの後押しを受けてデビューしたシンガー。
本曲はそんな彼のシングル「Simple Melody」にカップリングとして収録された松尾氏による表題曲のリミックス作品。
クリエイターとして初の仕事が海外アーティストからの依頼であり、しかもそれがBaby Faceというあたりに松尾氏のジャーナリストとしての実績と信頼度が伺えますね。
後にクリエイターとしても名を馳せることになるとは、ご本人含め当時は誰も予期していなかったことでしょう。
ちなみに本曲は後に発表されるベストアルバムの日本盤ボーナストラックとして収録されている他、松尾氏が選曲した14曲からなるコンピレーションアルバム「Smooth OVERSEAS」にも収録されています。
具島直子 「Candy (KC melts "Miss G."Remix)」(1997)
シンガーソングライター兼ボイストレーナーである桐ヶ谷ボビー氏プロデュースによりデビューした具島直子。
透明感のある歌声とAOR、シティポップサウンドが特徴。聴き手は心地いいグルーヴに酔いしれること間違い無しです。近年のシティポップ再燃により再び注目を集めている存在と言えるでしょう。
本曲は96年発表のデビューアルバム「miss.G」に収録された「Candy」を松尾氏がリミックスしたもの。97年に12インチアナログ盤としてリリースされたものの、楽曲のクオリティもさることながら出荷枚数が少ないためレア度が高く、しばらく試聴難易度が高い状態にありました。(一応3rdシングル「no.no.no.」のカップリングとしても収録されていますが、こちらもあまり見かけない上に見かけても高騰している...)
しかし、2018年にめでたく7インチアナログ盤として再リリースされたことにより、以前よりは幾分か入手しやすくなったかと思います。(こちらも結局高騰してますが...笑)
久保田利伸 「Love Reborn (KC'S "WHAT'CHA GONNA DO?" REMIX)」(1998)
ライターとして高い評価を得ていた松尾氏は日本のブラックミュージックのパイオニア、久保田利伸とも早々にコラボレーションしています。
本曲は88年にリリースした3rdアルバム「Such A Funky Thang!」に収録された「Love Reborn」を松尾氏が新たにリミックスしたもの。
20thシングル「AHHHHH!」のカップリングとして収録された。
特筆すべきはリミックスにあたって松尾氏が参加を依頼した女性アーティストの面々。
上記の具島直子を始めDOUBLEのSACHIKOとTAKAKO、みとともみ、嶋野百恵がアディッショナルヴォーカルとして参加しています。
もはやハーレムですよね 笑 羨ましい限りです 笑
原曲は深遠なサウンドに久保田の歌声が深く反響する切なくも美しい名曲なのに対し、こちらは当時のトレンドであるR&Bサウンドと上記の女性アディッショナルヴォーカルによりセクシーさが際立つアダルトな仕上がりに。
夜を彩るまさしくメロウなリミックスですね。原曲共々必聴です!
DOUBLE 「BED」(1998)
実の姉妹による女性R&BデュオDOUBLE(99年姉SACHIKOの永眠によりTAKAKOのソロプロジェクトに)の3rdシングル。
本曲は松尾氏が一からプロデュースした記念すべき最初の作品であり、松尾氏がクリエイターとしても名を馳せるきっかけになった曲でもあります。
大人の恋愛をテーマにしたメロウなリリックと官能的なヴォーカルが曲の世界観を見事に表現していますね。
2007年には本曲の続編である「残り火-eternal BED-」がリリースされるなど、松尾氏はもちろん、DOUBLEにとっても思い入れの深い曲であることは間違いないでしょう。
また、のちに多くのリミックス作品をリリースするDOUBLEですが、中でも実の姉妹であるDOUBLEと実の兄弟であるMummy-DとKOHEI JAPANによる本曲のリミックス「BED (DOUBLES) featuring Mummy-D from RHYMESTER and KOHEI from MELLOW YELLOW」は根強い人気を誇る名リミックス。こちらも必聴!
葛谷葉子 「最後の夜」(1999)
葛谷葉子は松尾氏が「音楽に呼ばれた女」「松任谷由実以来の才能」と絶賛し太鼓判を押したアーティスト。松尾氏がそのデビューからほぼすべての作品をプロデュースしたアーティストとしても知られています。
全体としては先述の具島直子に通じるAOR、シティポップサウンドに日本語の響きを重視したナチュラルな歌唱が特徴。まるで隣に居て話しかけられているようなリアルな質感のヴォーカルに思わずうっとりですね。
作詞家としての才能も素晴らしく、恋愛に一喜一憂する女心を綴ったリリックに共感してしまう人も多いのではないでしょうか?
本曲はCHEMISTRYらを生み出したオーディション番組「ASAYAN」の男子ヴォーカリストオーディションの最終課題曲として知られたナンバー。後に「最後の夜~KUZUYA'S R&B~」としてリメイクされます。
残念ながら当時はヒットに恵まれませんでしたが、高品質な作品群は多くの音楽ファンに愛され、これからも決して色褪せることはないでしょう。「生まれた時からクラシック」それが彼女のキャッチコピーでした。
嶋野百恵 「45℃」(1999)
こちらも松尾氏がデビューからトータルプロデュースを手掛けたシンガー。嶋野百恵。
とはいえ、上記の葛谷葉子と異なりこちらは松尾氏以外にも、K-Mutoや村山晋一郎などバリエーションに富んだクリエイターが多く関わっている印象。
HIP HOPアーティストとのコラボレーションも多いことからアンダーグラウンド的なカッコよさを感じる女性シンガーでもあります。
艶のあるセクシーな歌声と、切なくも熱い女性の性を見事に表現したリリックが唯一無二の魅力を放っていますね。
本曲はそんな彼女の3rdシングル。美しくもどこか歪な雰囲気をニュージャック・スウィングビートが引き締める。絶妙なバランスを保った名曲。
本曲には多くのバージョンが存在しますが、「45℃ (NJS Mix)」はブリッジ部やラストにおけるアレンジやフェイクが異なるので、彼女のヴォーカルの魅力を感じるにはうってつけ。
めっちゃカッコいいです。
Caize 「My Sugar Babe(KC'S GOOD TO GO GO REMIX) featuring Mahya from SOUL LOVERS & Ryoji from ケツメイシ」(2000)
上記の嶋野百恵の作品も多く手掛けたK-Mutoプロデュースの元デビューした男性ソロシンガーCaize(ケイズ)。後にK-MutoやエスカレーターズのZOOCOらと共にSOYSOULを結成し活動しています。女性から先に一気に火がついたR&Bブームの中、かなり本格的なR&Bを実践していた貴重な男性アーティストでもあります。
ソロとしてはシングル2枚をリリースするにとどまりましたが、独特なしゃがれ声を自由自在に操る高い歌唱力で、優れた作品を世に残しました。個人的に好きなアーティストなので、もっとソロで聴いてみたかったですね。
本曲は1stシングル「My SUGAR BABE」を松尾氏がリミックスしたもの。ゲストにSOUL LOVERSのMahya、ケツメイシのRyojiが加わっているあたりが実に嬉しい。
原曲はメロウなR&Bなのに対し、こちらは80年代後半を思わせるファンキーな仕上がりで思わず踊りたくなりますね。
JIN 「ONE LIFE」(2000)
韓国生まれ大阪育ちのシンガーソングライターJIN。10代後半における渡米やバークリー音楽院への留学経験を持つ。
松尾氏と音楽界の重鎮鷺巣詩郎氏による双頭プロデュースという実に豪華な布陣で迎え入れられた実力派。
後に母国韓国でもアルバムをリリースするなど、当時からワールドワイドな視野を持ったアーティストでした。
ラッパーとしても高い技量を誇り、本曲「ONE LIFE」はそんな彼のラッパーとしての実力を見せつける超本格HIP HOP。彼も時代を先取りした才能の持ち主だったかもしれませんね。
現在はプロデューサーとして様々なアーティストの楽曲制作に携わっており、AIやMay J.、Ms.OOJAなどのヒット曲を手掛ける敏腕として活躍しています。
平井堅 「Miracles」(2001)
歌手生命の危機をシングル「楽園」で脱した後、松尾氏をプロデュースに迎えR&B路線で大成功した平井堅。3rdアルバム「THE CHANGING SAME」もミリオンヒットを記録し、一躍売れっ子アーティストの仲間入りを果たしました。
12thシングル「Miracles」はそんな平井の過度期とも言える時期にリリースされたナンバー。上記の「楽園」や「why」、「KISS OF LIFE」といったライブなどでも定番と化した曲と比較するとやや知名度は下がりますが、幻想的なサウンドの中、儚く響く彼の美声が非常に心地良い名曲。
平井堅 「KISS OF LIFE」(2001)
こちらも上記の「Miracles」とほぼ同時期にリリースされた、UK発祥の高速ビート2STEPを取り入れた疾走感溢れる爽やかなナンバー。
ライブでもお馴染みの人気曲ですね。スカッシュをしてるPVが印象的な一曲でもあります。
同じ2STEPナンバーでは後にリリースされる「style」も大のお気に入り。
先述した3rdアルバム「THE CHANGING SAME」と本曲が収録された4thアルバム「gaining through losing」の二作のミリオンヒットをプロデュースした松尾氏は、時を同じくして某男性デュオの発掘とプロデュースに携わることになります。
ここから松尾氏のクリエイターとしての才能がさらに開花していきます。
今回は以上になります。
次回は2001年以降の松尾氏の活躍をまとめていきます。
最後までご覧いただきありがとうございます。
ではまた次回!
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