10.ネオソウル

ご覧いただきありがとうございます。

先日は全2回に渡ってオルタナティブR&Bについて執筆して参りましたが、今回はその前身と言える「ネオソウル」と呼べる作品を幾つか紹介していきます。

80年代後半から90年代前半、USではニュージャック・スウィングというダンサンブルな横揺れ楽曲が台頭、さらにはHIP HOPサウンドをベースにした歌モノも進化を遂げ、ティンバランドを代表する変則ビート(通称チキチキビート)も大いに流行りました。

この時期に現在でいうR&Bのベースが出来上がった感じですね。

上記のような潮流がR&Bのメインストリームになると、90年代半ば頃からそれらメインストリームの楽曲とは一風変わった作品が注目を浴び始めます。

それが後にディアンジェロやエリックベネイ、エリカバドウに代表される「ネオソウル」と呼ばれる作品群になります。


そして「ネオソウル」の特徴は前々回の記事で説明したオルタナティブR&Bとほぼ同じ...

つまりは「ネオソウル」の現代版が「オルタナティブR&B」と言えるでしょう。

ややこしいですよね...笑

20年前にも、呼称こそ違えど似たようなムーブメントがあったわけですね...


日本でR&Bが流行りだした90年代後半はそういったメインストリームのR&Bはもちろん、ネオソウル勢も台頭してきた時期だったので、当時日本でR&Bを実践するアーティストを振り返ると、どちらかというとメインストリーム寄り、はたまたネオソウル寄りといった感じで、差異があったように思います。

まあ、その頃はそもそも「ネオソウル」なんて言葉が浸透していなかったので、ひとくくりでR&Bと呼んでいて、その要素をいかに邦楽に上手く組み込んでヒットに繋げるかといったことを多くのアーティストや音楽関係者が考えていたんですね。


ということで改めまして今回は、日本におけるR&Bブーム(90年代後半〜00年代初期)の作品の中でも、「ネオソウル」寄りの作品を紹介していきます。(何度も言いますが、ジャンルの厳密な線引きは難しい)


最後までご覧いただければ幸いです。

※にしても、今回紹介する作品は今の10代〜20代には馴染みが無さすぎてかなりマニアックに感じるかもしれません...

こないだボイトレネタの記事を書いていたとは思えないマニアックさですよね...笑

SOUL LOVERS 「熱いもの」(2000)

男女3人組ユニットSOUL LOVERS(ソウル ラヴァーズ) 

彼女らはUS発ネオソウルに対する日本からの回答と言われ、活動初期から芳醇なサウンドと歌声で、非常に味わい深い作品を世に送り出してきました。動画はVo.Mahyaのソロ歌唱映像。

1stアルバム「New Age Channel」は今なお愛される名盤。客演にケツメイシのRyoji、エスカレーターズのZOOCO、R&BコーラスグループF.O.H(現Full OF Harmony)が参加しているあたりが何気に豪華ですね。本曲はギターの音色がオリエンタルな風情を醸し出すスローバラッド。Mahyaの歌声もソウルフルながらも、やや吐息がかった質感で大人の色気を感じずにはいられないですね。

ちなみに彼女は現在ソロでも活動しているので気になる方はチェックしてみてはいかがでしょうか?


椎名純平 「白昼夢」(2001)

前回に引き続き2回目の登場となる椎名純平。日本におけるネオソウルを語るとなったら外せない人物でしょう!

1stアルバム「椎名純平」は全編に渡ってネオソウル特有のスモーキーなオーガニックサウンドを味わえる名盤。その中でも後にシングルカットされリリースされるこの「白昼夢」は別れの季節をどこか淡々としたリリックで綴りながらも、まるで叫ぶような太いヴォーカルで熱く歌い上げる名曲。他にも「世界」「無情」など名曲は多数なのでかなりお勧め。

にしても渋い...そして濃ゆい...

2001年と言ったらCHEMISTRYやEXILEがデビューしたり、宇多田ヒカルや倉木麻衣といった歌姫なんて言われるアーティストが活躍していた時代...

その時代にこういう楽曲をコンスタントにリリースしていた事実に改めて驚きます。


Sugar soul 「Sauce」(1998)

Vo.のaico(アイコ)と前回の記事で登場したDJ HASEBE、コンポーザーのカワベによる3人組ユニット。当時若者の間で高い人気を誇り、1999年に発表したDragon AshのKenji(現Kj)とのコラボレーション曲「Garden」は90万枚を超えるヒットを記録しました。

ネオソウル的なスモーキーで芳醇なサウンドはクラブシーンでも人気が高く、aicoのソウルフルな歌唱とセクシーな出で立ちも相まって一躍若者たちのカリスマに。

日本における倖田來未以前からいた元祖エロカッコイイだと私は信じています!笑(実際に倖田來未はSugar soulの曲をカヴァーしてもいるので、ファンなのかもしれないですね)

本曲「Sauce」は深い夜に聴きたい甘くセクシーなスローナンバー。ファンの間でも根強い人気を誇る名曲ですね。一時期めっちゃハマってリピートしてました笑

近年はaicoのソロユニットとして新譜もリリースされているので嬉しい限りです。



ORITO 「Finga Play」(2002)

1995年、アメリカ南部のメンフィス(60~70年代ソウルの中心地にして黒人文化を象徴する地)にて、アル・グリーン等をスターの座に押し上げた大物、ウィリー・ミッチェルプロデュースの元デビューした初の日本人歌手がいました。

彼の名前はORITO。日本でR&Bがブームになるずっと前の時点で、海外の大物と曲作りに励み、向こうでデビューしていた日本人がいたという事実に驚きですよね。

1997年には日本に帰国。逆輸入という形で日本でデビューすると、2008年に43歳という若さで天に召されるまでに、その唯一無二の圧倒的な歌声と本格的なソウル、R&Bサウンドで多くの名曲を世に残しました。(後に彼のトリビュートアルバムもリリースされてるくらいなので、同業者からも絶大な支持を得ていました)

本曲はディープなネオソウルサウンドに、大半が日本語詞とは思えないくらいスムースなヴォーカルワークが堪能できる聴き心地抜群のアダルトナンバー。映像が残っていることに感謝ですね。


Masayo Queen 「Sticky Sticky Wild Thing」(1998)

Masayo Queen(マサヨ クイーン)は90年代後半、関西クラブシーンで活躍したシンガー。

HIP HOPをベースにしつつも、レゲエやJAZZといった要素を巧みに融合した深みのあるサウンドや大人の色気を感じさせる歌唱に、ネオソウル的感覚が想起されます。

どこかアジアンテイストな出で立ちや、レコードのジャケットデザインからも見てわかるように、クラブ系ではあるもののアーバンテイストとは違うオーガニック感がいい味を出しています。上記のSugar soulにも通じるところがありますね。

アルバムとシングル合わせて数枚しかリリースされていないので少し寂しいですね。もっと聴いてみたかったですね。

98年ということを考えても、彼女も時代を先取りした存在だったかもしれません。


joi 「Butterfly」(2000)

joiは2000年にデビューした男性ソウルシンガー。美しいファルセットボイスと浮遊感のあるサウンドは当時他に類を見ない独自性を有していました。まさしくネオソウルですね。

日本でのデビュー以前、世界的に有名なDJであるJoe Claussellの目に止まり、NYのレーベルからオリジナル作品もリリースしている模様。

彼もまた、時代を先取りした才能の持ち主と言えるでしょう。

ヴォーカルはもちろん、ソングライティング、プログラミング、プロデュースまで自身でこなす実力派。他にもMISIAらの作品で作曲・編曲などを手掛けており、裏方としても優れた作品を世に送り出しています。

何気に「Freak Me」という曲でm-floのLISAとコラボレーションしており、それがまた良い!



SKOOP 「Amanogawa」(1999)

男性3人組(現在は2人組)R&BバンドSKOOP(現Skoop On Somebody)が1999年にリリースした不朽の名作。こちらはネオソウルというより前回紹介したオルタナティブR&Bと言った方がしっくりくる気がします。

ご存知の方も多いのではないでしょうか?知らなかったら是非一度聴いてみてもらいたいですね。

というのもこの曲、HIP HOPベースながらもフィルターがかったようなおぼろげなサウンドとMV、熱く歌い上げると言うよりファルセットを織り交ぜながら繊細な抑揚を感じさせるヴォーカルなどの要素によって、まさしく現行のオルタナティブR&Bと言える仕上がりに!

日本語詞のみで構成された美しいリリックも相まって、夏の夜を涼しげな空気が彩ります。

今から20年以上も前にリリースされた曲とは思えないですよね。

しかも当時この曲オリコンTOP100位にも入っていません。本当先駆的だったんだと思います。

ちなみに本曲はアルバムバージョンやRemix含め4種類存在し、動画はオリジナルバージョン。個人的には女性シンガーソングライター「葛谷葉子」が参加した「Amanogawa(織姫JOINT featuring 葛谷葉子)」もかなりお勧め。


平井堅 「楽園」(2000)

今回最後に紹介するのは日本が誇るポップスター平井堅。

今でこそ日本ポップ史に残る数々の名曲を生み出した国民的アーティストですが、そんな彼にも不遇の時代がありました。

95年にデビューしたものの、ヒット曲がないまま5年もの歳月が流れ、所属事務所との契約が切れる寸前にリリースされた曲がこの曲。一つ前のシングルを発表してから実に1年8か月ぶりのリリースでした。シングル曲としては初めて、外部のクリエイターに作詞や作曲を任せた曲でもあります。

当時はR&Bと一括りで呼ばれていましたが、今改めて聴くとR&Bをベースにしつつもそのサウンドや歌唱にはネオソウル的と言える要素が多数散りばめられており、実験的でありながらも実に完成度の高い一曲。未だにこの曲を熱狂的に支持するファンは多く存在し、かくいう私もその一人。

また、彼の中性的で伸びのある歌唱は当時珍しく、本曲はその高い歌唱力を生かした楽曲でもあるためキャッチコピーは「究声主再臨」でした。

本曲でアーティスト生命を首の皮一枚で繋ぎ止めてからの活躍ぶりは言うまでもないでしょう。





今回は以上になります。

20年以上前から、日本でも多くのアーティストがR&Bをベースに様々なタイプの楽曲を作っていたんですね。近頃のシティポップの隆盛を見ると、当時のアーティストが時代を先取りしていたとも言えるし、現代が一昔前のサウンドを懐古しているとも言えます。

コロナによる自粛が必要とされる今、少し昔の曲を掘り下げて見るのも、なかなか面白いですよ。


最後までご覧いただきありがとうございます。

次回はボイトレネタの記事にしようかと思っておりました。


ではまた次回!

Mellow Voice

歌モノ楽曲紹介サイト。 主に国産ブラックミュージック。J-R&B(日本語R&B)J-RAP(日本語ラップ)など

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